2021.02.25

NHKドラマ「ハルカの光」第3話は
イサム・ノグチの「AKARI」が主役。
岐阜提灯との出会いから生まれました

今回はどんな名作照明が紹介されるのかしら?と楽しみに見入った「ハルカの光」の第3話(2月22日、19:25~19:50、NHK Eテレで放映)。今回、店を訪ねてきたのはひとりのボクサーでした。たくましい身体と強そうなオーラに、ハルカもボーとしてしまったかに見えました。照明にはそんなに興味がない、というボクサーですが、集中できないときはロウソクの火を見ながら、ひたすら打ち続けると言う。そんなボクサーの目に留まったのは、イサム・ノグチのスタンドタイプの名作照明「AKARI 23N」でした。

 イサム・ノグチは1904年、日本人の父親とアメリカ人の母親の間に生まれた日系アメリカ人。幼少期は日本で過ごし、14歳で単身渡米。学校では彫刻を学びますが、彫刻家にとどまらず、空間デザイン、家具、照明、舞台装置など、さまざまなものを生み出し、チャールズ・イームズやジョージ・ネルソンと同じミッドセンチュリー時代を生きたデザイナー。

 イサム・ノグチが照明をデザインするようになったきっかけは、1951年に岐阜に伝統的産業である岐阜提灯との出会いでした。光を柔らく拡散させる和紙の性質と骨組みになる竹ひごを荒く不規則に張りめぐらすことによって、和紙の縮みやしわをそのまま残し、単なる照明の器具にとどまらず、光の彫刻として成り立たせました。ノグチは自分の作品を「AKARI」と名付けました。「AKARI 」は、光そのものが彫刻であり、影のない彫刻、住空間のなかに手軽に持ち込められる彫刻である、と彼自身語っています。
1951年から製作された「AKARI」シリーズは、彫刻するように発泡スチロールで形を削り出し、いろいろなバリエーションを作り続けました。その数は100作以上と発表されています。今回番組のなかで紹介されたのは、「AKARI N23」という大きめのスタンドライトで、比較的早い時期に作られた作品。4本の細い鉄製ワイヤーの脚が特徴のひとつで、とても軽やかにデザインされています。持ち運びも楽で、フロアスタンド、サイドテーブルランプ、ベッドサイド照明・・・と幅広く使えます。素材を生かしたシンプルなデザインは和室だけでなく、洋風の部屋にも違和感なく溶け込むので、ヨーロッパをはじめ、世界じゅうの家庭や店舗で愛されているのも「AKARI」ならでは。日本のグッドデザイン賞もとったし、ニューヨーク近代美術館にも収蔵されています。

 「AKARI」は今でも、当時と変わらない製法で岐阜提灯の職人によって作られています。また、あくまで素材にこだわる制作姿も、日本の伝統的工芸品の骨頂。「AKARI」のもつ軽やかさ、たおやかさも日本の美意識に基づくもの。日本人の血が流れているイサム・ノグチだからこそ作れた照明だとつくづく感じました。店を訪れたボクサーは「AKARI」のどこにひかれたのでしょう?

 さて第3話は、日本の美しい工芸品を見事に現代に蘇生させた、イサム・ノグチの「AKARI」
でした。3月1日(月)に放映される第4話は、どんな照明が主人公でしょう? 楽しみですね。